小さいお子さんに怪我はつきものですね。
皆さんお子さんが怪我をした時にはどんな処置をしていますか?
「バイキンが入って化膿したら大変!」とすぐに消毒薬をつけているという方も多いのではないかと思います。この処置が意外にも最近では見直されているということです。
擦り傷に消毒する?しない? みんなの意見は…
かつて、擦り傷に対する手当として「まずは消毒薬をつけて…」というものがごく一般的でした。
学校でちょっとした怪我をした際に保健室でそういった手当を受けたという方は多いのではないでしょうか。
子どもを育てる世代となっても、ちょっとした擦り傷の場合には消毒をして絆創膏を貼っておくという方は多いのではないかと思います。細菌感染を防ぐために早く傷口を消毒したほうがいいのでは?という気持ちになりますよね。
私の周りのお母様方に聞いてみたところ「自宅に市販の消毒薬や一般的な絆創膏を常備している」という方がほとんどでした。
幼稚園・小学校といった年齢のお子さんは毎日外で遊ぶことが多いですから、擦り傷はつきものです。中学・高校といった年齢になっても今度は部活動などで怪我をしてくることが多々あります。
病院に行くほどの怪我ではない場合、自宅にある消毒薬をつけて絆創膏やガーゼを当てるといった手当は日常的でしょう。お風呂に入った際などに絆創膏やガーゼを取りかえると思いますが、なかなか傷が治らずやきもきしたり、かさぶたがはがれてしまってまた出血してしまったり…という経験をすることも多いと思います。
しかし、消毒薬をつけて絆創膏やガーゼを当てるという処置、最近ではこの「常識」が変わりつつあるということです。
生き物には傷を治そうとする「自己治癒力」があります。
まずこの自己治癒力について考えていきましょう。
私達が持つ自己治癒力
傷を負って出血した時に身体の中で起こるメカニズムは大まかにいうと次のようなものになるそうです。
- 皮膚が損傷して出血が起こる
- 出血を止めるため損傷個所に血小板が集まる
- 白血球が細菌を除去する
- コラーゲンを生成する細胞が傷口をくっつける
- 表皮細胞が傷口をふさぐ
このメカニズムに沿って適切な処置をすると傷はより早く治り、傷跡なども残りにくいということになります。
ただし、一言で「傷」といっても様々なものがあります。
深い傷や水ほうを伴う広範囲のやけどなどはもちろん一刻も早く病院に行く必要があります。傷が深いものはそれだけ深く細菌が入り込んでいる恐れがありますので、必ず病院に行って診察を受けましょう。
擦り傷に消毒しなくても大丈夫なの?
傷を負った時の処置について順を追って考えていきましょう。
まず、自分の手をよく洗ってから傷口の様子や出血の状況を観察しましょう。
傷口が深い場合や範囲が広い場合には、たとえ出血が少量に見えても奥深くに細菌が入りこんでいることがあります。また、目安として10分程度止血を行っても出血が収まりそうにないといった時にもそのまま自分で手当てすることは難しいでしょう。
ころんですりむいたり指先を切ったりした場合のほとんどは毛細血管からの出血となりますが、鮮やかな色の血液が脈を打つように噴き出す、黒っぽい血液が持続的にじわーっと出血しているといったような場合には速やかな処置が必要となりますのですぐに病院に行きましょう。
傷口が浅く出血が軽度の場合には、水道水や生理的食塩水などの流水で充分に傷口を洗います。
傷口の周辺も流水でよく洗いましょう。土やごみなどが周辺に残っていると傷口に細菌が入って感染症の原因となることがあります。少量の出血ならば流水をかけているうちに止まることがあります。
出血が止まらない場合には「直接圧迫」をして止血をします。「直接圧迫」とは、出血している傷口にガーゼなどを当て直接圧迫して止血する方法です。毛細血管出血は、ほとんどの場合この方法で対処できるそうです。
直接圧迫で止血できない場合には、直接圧迫を行いながら傷口より心臓に近い動脈を骨に向かって指で押さえる方法を加えます。
怪我をした部位が手指の場合、すぐに心臓より高い位置に手を挙げて(挙上)、5本の指同士をくっつけるようにして細かく振動させるとよいということです。
腕の付け根を動かすようなイメージで指先を伸ばしたまま全体的に細かく振る(振動)ことによって、傷口に汚れがあった場合も動脈と静脈の吻合部分で血流の迂回が発生し、細菌感染のリスクが抑えられるそうです。また血圧を下げることによって出血を抑える効果があります。
止血の方法は他にもありますが、「圧迫止血法」と「挙上振動法」、この二つは一般的な擦り傷や切り傷には効果的ですので覚えておくと役に立つのではないかと思います。
完全に止血する前にまた傷口に水をかけると再度出血が起こることがあります。まずは止血をすることが大切です。完全に止血できてから水で洗うという方法でも問題ないそうですので、止血を優先しましょう。
傷口を消毒薬で殺菌する必要はないの?
消毒薬を用いると確かに一部の細菌を殺すことはできます。
しかし傷の修復に必要なものも殺してしまうことになります。そもそも菌はあらゆる場所に存在しているので消毒薬で100%殺菌を行うことは不可能です。
また、外部からの菌やウイルスの侵入を防ぐためにもともと皮膚には酸性のバリアが存在しています。消毒薬をつけるとこのバリアを流してしまうことになります。その結果、かえって細菌の侵入を助けてしまうことにつながります。水はこのバリアを流すことにはつながりません。
傷やその周辺のゴミや汚れを落とすことは感染症を防ぐために大切なことですが、それには水道水などの流水だけで充分だといわれています。
生々しい傷を見るとついすぐに消毒薬をつけたくなりますが、これがかえって傷の治りを遅らせたり細菌の侵入を助けたりすることになるということを、知っておくのはとても大切なことだと思います。
傷口に現れる透明な液体
傷を負って少し経つと、傷口に透明な液体が現れてきます。この液体は一体何なのでしょうか。
この液体は細胞培養液といわれており、生き物が傷を治すための自然治癒力の一つです。
液の中には止血するために集まった血小板、細菌を殺すための白血球、皮膚や血管を再生させるための細胞などが入っています。
この滲出液が傷口を覆って乾燥を防ぎ、早く皮膚を修復して再生させていくことにつながるのです。傷口の透明な液体の上から消毒薬をつけるのも、こうした自然治癒に必要な成分を殺してしまうことになります。
従来の手当では傷口にガーゼつきの絆創膏を貼るといったことがされていました。
しかしその方法ではこの滲出液がガーゼに吸い取られてしまい、自然治癒に必要な成分が取り除かれてしまいます。同時に傷口が乾燥してしまうことになります。傷口が乾燥するとかさぶたが形成されますが、ガーゼを取り変える際などにかさぶたが何度もはがれ傷跡が残ってしまうといったことにもつながります。
透明な液体が出てきた時にふき取ってしまうことは止めましょう。傷口から垂れてしまった時に周辺をぬぐうのは構いませんが、傷口を覆っている液を直接ふき取ることはしないようにしましょう。
基本的に、傷口が常にこの滲出液で満たされて乾燥しない状態を保つことが傷の修復のためには理想的だといわれています。この考え方に基づいて開発された、傷口にくっつかない新しいタイプの傷口保護パッドなども市販されています。
ひどい怪我なら自己判断はやめましょう
以上のように、最近では傷の修復メカニズムを踏まえた上で「擦り傷には消毒薬を用いない方がよい」という考え方が一般的となってきています。
ただし繰り返しとなりますが、これはあくまでも浅い擦り傷などの場合です。
深い刺し傷、噛み傷、やけどなど、ダメージが広範囲または深い場合には自己判断せずにすぐに病院で診察を受けましょう。
深い傷を自己判断で放っておくと傷跡が残ってしまうばかりでなく、化膿してしまうこともあります。
化膿している場合には傷口から透明な液が出てくることに加えて腫れや痛み、発熱などを伴いますが、そうなってしまうと自宅での治療はできません。治癒までの時間もさらにかかることになります。速やかに病院に行って適切な処置を受けてください。