「成長期にはぐんと身長が伸びる」ということは一般的によく知られています。
もちろんその通りですが、身長の伸びと栄養とは具体的にどのような関係があるのでしょうか。
また、成長期に特に必要な栄養とは一体どんなものなのでしょうか。
成長期に摂りたい栄養7つ!
体の働きを調整するために体内の様々な部位で生成されている物質として「ホルモン」があります。その種類は100以上あるといわれています。
その中でも、身長を伸ばすために特に重要なホルモンが2つあります。
成長ホルモンと甲状腺ホルモンです。
成長ホルモンは骨を長くする、筋肉を作るといった成長を促進する働きと同時に、たんぱく質を作り脂肪を分解してエネルギーを生み出すといった代謝作用を担っています。
甲状腺ホルモンもたんぱく質を作り出し、全身の新陳代謝を活発にして成長を促す働きをしています。
成長期にこうしたホルモンが活発に分泌されていることは、身長の伸びに大きな影響があります。
ホルモンバランス全体を整えることも全身の状態を保つ上でとても大切です。
ホルモン分泌やホルモンバランスにとって、偏りのない食生活は非常に大切なことです。
特に成長期のお子さんにはどんなものも好き嫌いなくまんべんなく摂取してほしいものですが、ここでは成長期に特に大切なものをいくつか挙げてみます。
たんぱく質
骨をつくる土台となるばかりでなく、筋肉、皮膚、毛髪、血液などすべての構成成分となるものです。
また、成長ホルモンの分泌を促す働きもあります。
12歳~14歳の子どもの一日の必要摂取量は男子では85g、女子では70gといわれており、これは成人の必要摂取量よりも多いものとなっています。成長期には最も大切な栄養素といえるのではないでしょうか。
ただし、たんぱく質は必要量以上摂取しても意味がないばかりでなく、消化の際に内臓疲労を起こしてしまったりする恐れがあります。
さらにたんぱく質が豊富な食品は一般的にカロリーが高いものが多いため、消費しきれないエネルギーで結果的に太ってしまうということもあります。適量を上手に摂取することを考える必要があるでしょう。
カルシウム
コラーゲンを包み込んで骨を新しく作りかえる作用を持っています。
つまり新しい骨の成長のためには必要不可欠な栄養素です。骨や歯を丈夫にしていくだけでなく、筋肉の収縮や神経の安定にも大きな効果を発揮します。
思春期では男子900mg、女子では700mgが必要摂取量といわれており、現代の食生活では「摂り過ぎ」ということはまず起こらないと考えられています。
カルシウムは成長にとって必要不可欠な栄養素ですが、それだけでは効果を発揮できません。ビタミンDや亜鉛、マグネシウムといったものと同時に摂取していくことによってはじめて、成長に関した様々な効果が期待できるものです。
インスタント食品はカルシウムの吸収を阻害するといわれていますので、頻繁に食べることは避けたほうがよいでしょう。
ビタミンD
小腸でのカルシウム吸収を促進します。また血液と骨との間でカルシウムを行き来させて、カルシウムを骨にスムーズに沈着させる役割があります。
ビタミンDは食事から摂取することもできますが、紫外線に当たることによって私たちの皮膚でも合成することができます。
薄着で10~20分程度日光浴をするだけで必要なビタミンDが生成できるともいわれています。
鉄
造血に必要不可欠です。どんなに口から栄養素を摂取しても、血液に乗って全身や骨にまで届かなければ効果を発揮できません。特に成長期は体がどんどん大きくなるため血液も増やしていく必要があります。
思春期の男子は一日に11mg、女子は14mgが目安となります。女子の方が多くなって
いるのは月経による血液の損失があるためです。女子にとっては特に大切な栄養素といえるでしょう。
亜鉛
たんぱく質の合成とコラーゲンの形成に不可欠なものです。
カルシウムは骨を丈夫にしますが、「身長を伸ばす」ということには直接つながりません。
亜鉛を一緒に摂取することによって骨を成長させる=身長を伸ばす効果が期待できるのです。また、免疫機能の向上や性腺発達にも関わっています。ただし、亜鉛の過剰摂取は鉄などの吸収を阻害するため、貧血を招く恐れなどがあります。
マグネシウム
カルシウムの吸収を調節する働きがあります。
カルシウムは単体では活動できません。カルシウムとマグネシウムのバランスは2対1が理想といわれており、カルシウムとペアになることによって健康な骨の維持や身長の伸びを促進するといった効果が期待できます。
DHA(ドコサヘキサエン酸)
身長の伸びとは直接関係ありませんが、脳の発達においてとても重要な栄養素です。
成長期にしっかり摂取することによって健全な脳の発育、記憶力や学習能力の向上が期待できるといわれています。
青魚に多く含まれていることでも知られていますが、熱に弱く、食事だけで必要量を補うのは難しいといわれています。
そのほかにもアルギニン、ビタミンK、リン、葉酸、ビタミンC、銅といったものは成長にとって大切な栄養素です。
ただし栄養素は単体では効果が薄いかあるいは効果が期待できないものが多いばかりでなく、過剰な摂取で問題を引き起こすものもあります。色々な栄養素をバランスよく摂取することが最も大切だということがいえるでしょう。
成長期に身長が伸びやすいのは何で? 身長が伸びない時はどうしたらいい?
「身長が伸びる」というのは、「骨が伸びる」といいかえることができます。つまり成長期には骨が伸びやすいといえるのですが、ではなぜ成長期には骨が伸びやすいのでしょう。
子どもの骨には「骨端線」という部分があります。骨の両側にある軟骨のような部分で、乳幼児期から中学生程度の年代ではこの部分はとても柔軟です。
「身長を伸ばすために成長ホルモンが重要」と上に書きましたが、より具体的には、成長ホルモンの働きによって肝臓で作られる「ソフトメジンC」というホルモンが骨端線に働きかけることによって、骨を成長させることができます。
つまり「骨が伸びる」ということは、「骨端線が柔軟である」→「ソフトメジンCの働きかけがある」→「様々な栄養素によって新しい骨が作られる」といった流れで起こるのです。
ですからバランスよく栄養素を摂取することは、各ホルモンの分泌を活発にするという点と新しい骨を作るという点、この両方においてきわめて重要であるといえるでしょう。
多くのお子さんが第二次性徴を迎える時期は男子では11歳半程度、女子では10歳程度といわれています。この第二次性徴が始まった時期から終了する時期までを、医学的には「思春期」と呼んでいるということです。
思春期に分泌される性ホルモンによって、思春期特有の体の変化(二次性徴)と急激な成長速度の亢進(成長のラストスパート)が起こります。「成長期にはぐんと身長が伸びる」といわれるのはこうしたしくみによるものです。
逆に、この時期を過ぎると骨端線の部分は固まっていきます。骨端線の部分が固まってしまうと栄養などに配慮しても身長の伸びはあまり期待できません。
ただし成長期が過ぎたからといって骨端線はすぐに完全に固まってしまうわけではなく、男子では20歳を過ぎても少しずつ身長が伸びるという人もいるようです。
「成長期といわれる時期になっても子どもの身長があまり伸びない」ということに悩んでいる方は多いと思います。こうした時にはどうしたらいいのでしょう。
思春期には個人差がある
思春期の到来時期には大きな個人差があるということです。
先程男子では11歳半程度、女子では10歳程度と書きましたが、この年齢はあくまでも「思春期に入ったかな?」という時期のことです。
この年齢になったからといってすぐに身長が大きく変化するわけではありません。身長の著しい伸び(成長のラストスパート)が見られるのは、第二次性徴期の後半2年程度といわれています。
多くのお子さんの場合、思春期に入る前の段階まで、著しい伸びは見られなくてもある程度一定の割合では伸びてきていると思います。
こうしたお子さんで思春期の到来が遅いという場合には、一時的に周りのお子さんが急激に大きくなってもさほど心配する必要はないでしょう。思春期の到来が遅い場合には最終的な身長は平均以上になるといったデータもあります。
思春期の到来が女子で中学生後半、男子で高校生になってからということも決して珍しいことではありません。
思春期の到来時期についてはご両親の思春期到来がいつ頃であったかということも一つの目安になります。
栄養 睡眠 運動 のバランス
成長期のお子さんにとって「栄養」「睡眠」「運動」は大切な3つの柱です。
この柱がバランスよく揃うことによって、成長ホルモンの活発な分泌が期待できます。
栄養のバランスが大切なことはいうまでもありません。
質・量ともにバランスのよい食事の重要性は昔からいわれていることです。ただ、実際の食卓を考えるとなかなか難しいことでもあります。
お子さんによってはアレルギーの問題、また偏食や小食といったこともあるでしょう。最近ではお子さん用に開発されたサプリメントも発売されていますので、こうしたものを上手に取り入れていくのも一つの方法ではないでしょうか。
また、肥満になると成長ホルモンの分泌が減り身長が伸びにくくなってしまうことは医学的にも証明されているそうです。
肥満については運動不足も考えられますが、お菓子やジュース、脂っこい食事やインスタント食品の過剰摂取、間食、夜食といった生活習慣も原因として考えられるでしょう。こうした問題が食生活に見られる場合には改めることが重要です。
睡眠もバランスが大切です。睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠とがあり、これらを交互に一定の時間ずつバランスよく取ることで質の良い睡眠となります。
特に、成長ホルモンが多く分泌されるのは「眠りについてから最初の約90分間に迎える最も深い睡眠状態と時」といわれています。
つまり眠りについてからの3時間程度の眠りの質はとても大切なのです。このバランスが崩れ、浅い眠りばかりが続いているといった状態になると、いかに長時間寝ていようと成長ホルモンの分泌量は減ってしまいます。
運動も成長期のお子さんには欠かせません。運動は食欲増進やストレス解消、肥満防止といった面ばかりでなく、全身の血行促進や骨端線に適度な刺激を与えるという意味においても大切です。
しかし過度な運動はかえって成長を阻害してしまうことがあります。
次の日にまで疲労が残るような運動を続けていくと、体の疲労回復のために栄養素や成長ホルモンを使ってしまうことになります。運動による負荷が骨端線に集中したりするようなものも、身長の伸びに関してはあまりよくないといわれています。つまり全身にとってバランスのよい運動を適度に行うことが大切なのです。
思春期に身長を伸ばすにはバランスが大切です
思春期に訪れる成長のラストスパート、この時期を最大限に活かすために日々をバランスよく過ごしていくことを心がけていきましょう。実際にはなかなか難しいことですが、理想として念頭に置いておくだけでもよいと思います。
身長には遺伝や生活習慣以外にも、各自の体質など個人的な要素が複雑に絡み合うため、最終的な数値を確実に予測するのは難しいことです。
しかしおうちの方がサポートできることはたくさんあり、食生活はその最たるものといえるでしょう。明らかにバランスの悪い点がある場合には、お子さんと一緒に見直していくことはとても大切です。