お子さんが「学校に行けない」ということが起こった時に親としてできることは何なのでしょうか?
これには「こうすればいいよ」などというハウツーは存在しません。個々の状況に深く根差した、とてもデリケートな問題です。
なぜ学校に行けなくなるの? ストレスが原因?
「学校に行けない」、その原因は様々です。ここでその答えを一つ一つ具体的に示すことはできません。
お子さんの性格、育ってきた環境、ご両親の対応、進学した学校の様子、そこで巡り合った人々、そうしたことについてまったく同じという例はありません。「不登校」の背景にはそれぞれの異なった状況があります。
最初に学校に行けなくなる様子も一通りではないでしょう。「学校に行きたくない」と言葉で伝えてくるお子さんもいれば、本人は行こうとしていても身体的な症状が先行するという場合もあります。
「学校に行けない」という出来事が起こるまでの間に、本人の中で様々な葛藤があったことをまず親としては受け止めてあげなければなりません。
「どうして学校に行けないの?」という問いの答えを本人がはっきり把握していないことさえあります。親として「なぜ?」に対する回答を焦ることは禁物といえるでしょう。
不登校が生じた時、もちろん本人にとって何らかのストレスがあることは明らかでしょう。ただ、普段の生活の中でストレスは誰にでもあるものです。毎日元気に登校する子どもにでも何かしらのストレスはあると思います。
大人の場合でも同じだと思いますが、ストレスを相殺できるような楽しみや目的・目標があるうちはあまりストレスを意識せずに過ごせます。身体的に健康であることも大切です。多少のストレスはありながらも「明日も頑張ろう」という気持ちで進んでいくのです。
大人の場合は息抜きが上手くなっており、ある程度精神的・肉体的に疲労してしまった場合、言葉は悪いのですが、ちょっと手を抜いたり自分を甘やかしたりすることで回復を図ります。そうしたことで「最悪の状況」に陥る前に何とか自分自身の調子をコントロールしていくことが大人にはある程度可能です。
子どもにはなかなかこれができません。子どもは自身のストレスと上手く付き合う術を持ちません。「最悪の状況」になってしまうまで必死で頑張ってしまいます。必死で頑張ってしまうからこそ精神的・肉体的な落ち込みも大人が想像する以上のものとなります。
ストレスの大・小は傍から決められるものではありません。親や教師、大人たちからすると些細なことと感じられるようなことでも、子どもにとっては大きなストレスと感じられることがあります。特に学校のような、ある種閉鎖的な社会で多くの時間を過ごさなければならない子どもたちにとって、そこで起きた事象は一つ一つが重大な事件なのです。
良い解決方法はある? 治療方法とは?
第三者からの「診断」等を経て、精神的・肉体的な「治療」という方向に進む場合もあると思いますが、ここでは親として考えられる対応を考察してみたいと思います。
不登校が生じた際、親としては大まかに分けて「見守るべき」という考え方と「何らかの対策を講じたほうがいい」という二つの方向性があるでしょう。しかしこれはどちらか一方が正解ということではなく、その子の状況に応じて適度に使い分けていくことが必要になると思います。
生活態度の乱れや無気力といった、いわゆる「だらしなさ」「怠け癖」といわれるものからくる場合については、「見守っていく」というだけでは不十分かもしれません。もちろん子どもが抱えている不満などについて理解に努めていく姿勢は大切ですが、家庭の中だけで解決しようと考えると改善は難しいでしょう。
ある程度積極的に第三者の意見も取り入れて、親子共に生活態度を改めていくことが求められます。
必要であれば支援センターや医療関係など専門家の力を借りることも考えられます。
「だらしない」「怠けている」と一言で片づけることはできない問題点がなにかしら潜んでいるはずです。お子さん一人の力ではなかなか改めることができない身体面・精神面のサポートを周囲と相談することによって、親としてもお子さんを客観的にとらえるよい機会となるでしょう。
今まで模範的な「子ども」・「生徒」として頑張ってきた子が息切れのような形で不登校となってしまう場合もあります。こうした時、表面的なきっかけは何らかの挫折経験などにあるかもしれませんが、その根は家庭環境にあることもあります。親や周囲からの過度な期待、見当違いの励ましや咤、そうしたことから知らず知らずの間に子どもが大きなストレスを抱えてしまっていることがあるからです。
こうしたときに一番の救いとなるのは、やはり親の理解と受容でしょう。
子どもはだれでも親に認めてもらいたい、ありのままの自分を理解してほしいと望んでいます。
息切れタイプの子の場合は、決して学校生活のすべてを嫌っているわけではありません。
努力をする大切さも知っていることが多いです。また友人が多いという場合もあります。ですから、親がある程度見守る覚悟をしてしばらく休養をとるといった事を経ながら、やがて学校生活に戻っていくことは大いにあり得ます。
学校生活の中でのいじめや孤立といった状況から不登校に至ることもあります。現在では、不登校といじめの問題は非常に密接な関係があると思われます。
いじめの定義についてはまた様々な議論があり、何をいじめとするのかを客観的に判断するのは難しいことです。しかし本人がいじめだと感じている場合にはやはり周囲の大人たちは真剣に向き合う必要があるでしょう。
いじめがあると思われる場合、親としてはある程度積極的に周囲とコンタクトする必要があると思います。まずは担任の先生ということになりますが、それだけでは不十分な場合もあります。いじめを見過ごしてしまっている時点ですでに学級経営がうまくいっていないということになりますから、そうした場合は担任以外の教諭や副校長・校長、さらに支援センターといった学校外の意見を求めることも必要となるかもしれません。
ただし一つ心にとめておきたいのは、子どもの言葉だけで動いてしまっていないかという点です。
担任や学校と一対一で話をする前に、可能であるならばぜひ一人でも多くのママ友たちと話をしてみてください。
学校以外の習い事などをしている場合には、そこにかかわっているコーチや父兄などと話してみることもお勧めします。「子ども社会」の中でのお子さんの様子がより客観的にわかるかもしれません。
特に小学生の場合は、家に帰ってから学校などの様子を親によく話していることが考えられます。
子どもの言葉はそれぞれに主観的なことが多く、なかなか状況を客観的にとらえるのは難しいですが、「それぞれの子どもの目」を通した話を少しでも聞くことによって、自身のお子さんの問題点などが見えてくることもあります。
親としては辛いことなのですが、いじめという問題に立ち向かう際にこれはぜひ必要な視点だともいえます。
状況を冷静に受け止める気持ち
不登校にはほかにも色々な理由があるでしょう。いずれの場合も親は「どうして?」「何がいけなかったの?」と考えてしまいます。それは当然のことです。
しかし理由を究明する気持ちや動揺の気持ちが先行してしまい、今目の前にいるお子さんの状況を受け入れられない、ともすれば否定の気持ちで見てしまうということになってしまうならば、お子さんにとってそれは最も辛いことです。
理由はどうあれ「今は学校に行かれないんだ」というお子さんの現状を、事実として静かに受け止めることができたら、親子共に一息つくことができるでしょう。そうしたワンクッションを経て初めて、本当の意味での解決への糸口が見えてくるのかもしれません。