「子どもの夜泣きで困った」という経験をお持ちの方はとても多いと思います。
赤ちゃんが「夜泣き」をするのはまだ眠りが浅くリズムも未成熟なためで、いわばその過程で当然起こる生理現象のようなものです。
一般的には3歳を過ぎるころまでに睡眠リズムはだいたい安定してくるといわれていますが、成長には大きな個人差がありますのですべてのお子さんが同じような時期に安定するということでもありません。
しかし2歳を過ぎ、3歳ごろを過ぎても睡眠に何らかの問題がみられる場合には原因を正しく知って早めに対処していく必要があるといえるでしょう。
子どもの睡眠障害の特徴とは?
睡眠障害とは、眠りについて何らかの問題がある状態を指す医学用語です。
一般的に子どもは、乳幼児期~3歳くらいまでの間に以下のような流れで睡眠リズムを確立していくといわれています。
- 生まれてすぐのころは短い周期で昼夜の区別なく眠りと覚醒とを繰り返します。
- 生後16週ごろまでに昼間長めに起きて夜間ある程度集中して眠るという、24時間の生体リズムがつくられます。
- 3ヶ月ごろにレム睡眠とノンレム睡眠とがあらわれるようになります。
- 2~3歳過ぎごろまでにノンレム睡眠とレム睡眠を90分ほどの周期で繰り返す、大人とほぼ同じ睡眠リズムが形成されていきます。
2歳くらいまでの子どもの睡眠があまり規則正しくないといった時にはまだ睡眠リズムが充分に確立していないことも考えられます。しかし3歳を過ぎてからも下記のような点がみられる場合には注意が必要です。
・激しいいびき
・夜中に頻繁に泣く
・夜中に何度も目を覚ます
・起きてはいるが日中の機嫌がずっと悪い
・一日を通して眠気がある
・放っておくと昼ごろまで寝ている
・朝自分では起きられない
・寝ている途中に呼吸が止まる
・集中力がなくイライラしている
・恐ろしい夢を見て何度も起きる
・夜中に突然泣き叫びパニックを起こす
・おねしょ
・手足のむずむず感や違和感、痛みで眠れない
「夜中に起きる」「なかなか眠らない」といったことはどんな子にも時々はみられるものです。
一時的なものであるならばすぐに「睡眠障害かしら?」と慌てる必要はないでしょう。日中の活動が足りなかった、夜間に親や他の兄弟が活動するため眠れなかった、何らかの出来事によって一時的な興奮状態にあったといったことが考えられます。
しかし長く続いている場合や上記の特徴が複数みられる場合には睡眠障害の可能性があります。
大人であっても睡眠障害は深刻な問題ですが、特に子どもの場合、睡眠の質の低下は身体や脳の発育を阻害します。睡眠は日中の疲れを回復するためだけのものではなく、発達に欠かせない成長ホルモンの分泌に大きく関わっています。「睡眠障害かもしれない」という場合には少しでも早く対処する必要があるでしょう。
睡眠障害の種類
「睡眠障害」とひとことでいっても、その中には様々な種類があります。代表的な「睡眠障害」としては以下のようなものがあります。
- 不眠症
寝つきが悪い、朝早く起きてしまう、眠りの質が悪い、睡眠時間が短いという状態です。日中いつもなんとなく調子が悪く、不機嫌やイライラがみられます。頭痛や腹痛を訴えることもあります。
- 過眠症
夜間きちんと寝ているようにみえても、日中も起きていられないほど眠いという状態です。低年齢では体力不足で昼寝を必要としている場合もありますが、睡眠時間は足りているのにいつもとても眠そうにしている、ずっと寝ているという時には睡眠時無呼吸症候群などの病気が関係していることがあります。
- 概日リズム睡眠障害
昼夜のリズムと体内時計が合っておらず、うまく調節できずに生活に支障をきたす状態です。低年齢の子どもは親の概日リズムの乱れによって影響を受けることが多いといわれています。
- いびき・睡眠時無呼吸症候群
いびき・無呼吸の原因としては、鼻づまり・アデノイド・口蓋扁桃など、喉や鼻の奥のリンパ組織の肥大によって物理的に気道が狭くなっていることが考えられます。肥満によって気道が狭くなっていることも考えられます。
- 運動障害
・むずむず脚症候群…脚などの下肢がむずむずして動かしたい衝動にかられます。夜間などの睡眠時間帯に起こることで睡眠不足や深い睡眠の妨げとなります。ドーパミンの機能異常のほか、子どもの場合は鉄分不足で起きることも多いといわれています。
・衝動性運動障害…乳幼児期~4歳くらいまでに発症する睡眠障害の一つです。入眠時 や睡眠中に手足や頭を激しく動かしたり頭を打ちつけたりします。乳児期には非常に多くみられますが、5歳前後には5%以下になるといわれています。
- 睡眠時随伴症
睡眠中に異常行動や不快な身体的現象があらわれる場合の総称です。一般的によくみられる「ねぼけ」を含め、睡眠中に歩きまわり起きると覚えていない「睡眠時遊行症(夢遊病)」、恐怖の叫びを上げたり泣いたりして起きる「睡眠時驚愕症(夜驚症)」、睡眠中に恐ろしい夢や不安で生々しい夢を見る「悪夢障害」などがあります。思春期までに消失することがほとんどですが、遺伝・ストレス・外部からの過度な刺激などが原因といわれています。
また、睡眠障害は、自閉症・ADHDなどの発達障害の二次障害として起こることもあるといわれています。
・自閉症…音や光に敏感なため覚醒しやすい、睡眠に関係するホルモンのバランスが崩れているといったことが考えられます。
・ADHD…切り替えが苦手であるという面から「起きている状態」から「眠る状態」へのスムーズな移行が難しいといわれています。
・アスペルガ―症候群…寝るのを忘れて熱中してしまったり(過集中)、感覚過敏が睡眠を妨げたりすることがあるといわれています。
睡眠障害の治療法ってなにがあるの?
睡眠障害の症状が1カ月以上続いている場合や日常生活に支障をきたしている場合には、家庭内で生活習慣を見直すといったことと並行して、早めに病院を受診することも大切です。
子どもの睡眠障害は家族全員の睡眠にとっても大きな問題となります。長期にわたって家庭内だけで対処していくことはなかなか難しいでしょう。正しく原因を知って適切な対処をしていきましょう。
小児科を受診することが基本となりますが、子どもの睡眠障害の治療を専門的に行っているところもあります。インターネットで調べることもできますし、保健センターなどに問い合わせたりかかりつけ医から紹介してもらったりしてもよいでしょう。
子どもの睡眠障害を診断する際にはまず「問診」が行われます。問診によって睡眠障害が疑われる場合は「終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG検査)」が行われます。
終夜睡眠ポリグラフ検査とは、体の様々な箇所に電極やセンサーをつけた状態で眠り、睡眠中の脳波・心電図・呼吸状態などを測定する検査です。痛みはなく病院に泊って行われることが一般的です。
問診や検査によってある程度原因が判明したら治療へと進みます。治療の内容としては以下のようなものがあります。
- 生活指導
就学前や小学校低学年の子どもの睡眠障害には親の生活習慣も大きく関係しています。そのため家族全員の生活習慣の見直しや子どもへの関わり方についての指導が行われます。睡眠について正しく理解して睡眠環境や生活習慣・リズムを整えることは睡眠障害ではないお子さんの場合にも非常に大切です。睡眠表をつけるといった指導などがあることもあります。
- アレルギー性鼻炎・喘息・扁桃腺肥大などの治療
睡眠障害の原因が鼻づまりや咳にある場合にはそれを引き起こしている疾患の治療を開始します。アデノイドや扁桃肥大の場合には耳鼻咽喉科での手術となる場合もあります。
- 高照度光治療
夜型にシフトしてしまった睡眠サイクルを本来の形に戻すための治療です。朝早い時間に強い光を当て、体を目覚めさせることを目的としています。
- 低温サウナ療法
これも③と同様、夜型にシフトしてしまった睡眠サイクルを戻すための治療です。眠る前に体を温めて興奮を鎮めることを目的としています。
- 薬物による治療
体内時計を調整する働きを持つといわれるメラトニンや抗ヒスタミン剤などによる薬物療法が行われることもあります。
原因を知って正しく対処しましょう
睡眠障害は子どもの発育に大きな影響があります。そしてしっかり眠ることができないということについて一番辛いのは本人です。
特に小さいお子さんの場合には自分の意思ではどうにもなりません。両親や周りの大人がきちんと原因を知って正しく対処していくことが必要となります。
一般的に、子どもの発育のためには夜8時には子どもを寝かせることが望ましいといわれています。
しかし実際には、共働きの増加などにより3歳以下の子どもの就寝が夜10時を過ぎるという家庭が年々増えているという報告もあります。夜型の生活や睡眠時間の減少は社会的な問題ともいえますが、こういった問題点があるご家庭の場合にはできる限り子どもの睡眠環境を整えていくことが必要となってくるでしょう。
一方、家庭内で様々な対処を行っても解消されない睡眠障害の場合には早めに医療機関に相談することをおすすめします。
睡眠障害の原因が育児方法や生活環境といったことにあるのかもしれないと長年悩んでいる方もおられると思いますが、まったくそうしたこととは関係なく睡眠障害が起きている場合もあります。子どもの睡眠障害が長引くと家庭内もかなり疲弊します。速やかに専門家に相談して原因を正しく知ることはとても大切なことだと思います。