生活保護とは、厚生労働省の定めにおいて「受給を希望する人があらゆる資産や能力を活用してもなお生活に困窮する」場合、困窮の状態に応じて必要な生活の保護を行い、健康で文化的な生活を送ることができるよう最低限度の保障をするというものです。
生活保護は保護を続けるだけでなく、将来的な自立を促していく制度でもあります。生活保護を受給される方がさまざまな扶助を受けながら徐々に生活の基盤を取り戻し、自立した生活を再び送ることができるようになることを最終的な目的としています。
生活保護は個人的な困窮ではなく「世帯として困窮状態にあるか」という点が受給の原則となります。
世帯全員が「生活を維持するためのあらゆる努力をしてもなお最低限度の生活が難しい」という場合、生活保護法によって定められた「生活保護基準額」に満たない額を生活保護費として受給することになります。
ではこういった状況となった場合、「学資保険」に加入をしていたとしたらどうなるのでしょうか。
学資保険はもしもの時の保証という一面もある保険ですが、貯蓄性が高いため資産としてみなされていまう可能性もあります。
子どもの将来のためにと始めた学資保険が、生活保護によって解約などを迫られることになってしまうのでしょうか?
生活保護を受給するための努力とは?
生活保護を受給する前にできる「努力」とは具体的にはどういったことでしょうか。
資産の活用
不動産、預貯金、生命保険、自動車といった資産がある場合は売却等の方法で生活費に充てることが必要です。
能力の活用
世帯の中で働くことができる人は働くように努める必要があります。
扶養・援助を受ける
夫婦や両親、成人した子供、兄弟姉妹、親戚などによる援助が可能な場合には積極的に求めていく必要があります。
他の制度の活用
雇用保険、健康保険、年金、児童扶養手当、高齢福祉手当、身体障害者福祉手当など
生活保護以外の制度を活用できる場合はそちらを優先することが求められます。
また生活保護を受給することになった場合には、小中学生対象の教育扶助・高校生対象の生業扶助という枠があり、該当する世帯にはそこから必要額が支給されます。
教育扶助
小中学生が対象の扶助で、憲法第26条に基づいて支給されるものです。
「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。」
具体的な扶助内容は以下のようなものとなります。
- 基準額…通学時に必ず必要な文具・消耗品購入のための費用等
- 学級費…児童会費・生徒会費・PTA費等
- 学習支援費…参考書類購入・課外活動等の費用・塾の費用等
- 給食費…給食費は学校によって異なりますが、基本的に全額扶助となります。
- 通学費…通学時にやむをえない理由から交通費がかかる場合に支給されます。
- その他…教育委員会が行う全校生徒が対象となる校外活動の参加費
生業扶助
生業扶助は、生活保護受給世帯だけではなく「そのおそれのある者」も対象となる給付金です(生活保護法17条)。この中に高等学校等に必要な費用を支給する「高等学校等就学費」という項目があります。
具体的な項目は各自治体によって異なりますが、おおまかには以下のような内容となっています。
- 基本額…学用品費等
- 入学料および入学考査料(受験料)…公立高校の受験に必要な費用
- 交通費…通学のために必要な交通費
- 学習支援費…課外クラブ活動費等
- 学級費等…学級費・生徒会費・PTA会費等
授業料については現在「高等学校等就学支援金」の制度がありますので、所得制限以下の世帯については公立高校の授業料負担は実質的に生じません。
また授業料以外の経済的負担については「高校生等奨学給付金」といった制度もあり、生活保護受給世帯の場合も支給の対象となります。
生活保護受給世帯には、上記のように入学準備や学校生活に関わるさまざまな費用が支給されます。一般的な世帯の場合はこうした費用をすべて家計からやりくりした上で保険料等の費用も捻出しています。そのため原則として生活保護受給世帯に関しては「学費保険に加入することは認められない」という見方が強いということはいえるでしょう。
この観点に従い、生活保護申請時に学資保険に加入している場合には原則として解約をするよう指導されます。
解約返戻金を資産として活用して生活費に充てることを優先する必要があるためです。
既に加入している保険について、保険会社としては保険料を支払ってさえいれば「解除する」ということはないでしょう。しかし原則として、生活保護を受給する場合には自動車や保険等の保有はできず、まずそれらを生活費に充てることが先決となります。
しかし例外として、生活保護受給開始後も学資保険を継続することが認められることがあります。
- 同一世帯に学資保険の被保険者と保険金受取人がいること。
- 保険金または解約返戻金の使い道が同一世帯の生活保護世帯の子どもの学費に充てるためであること。
- 開始時点の1世帯当たりの解約返戻金の額が50万円以下であること。
上記3点すべてを満たしている場合、「福祉事務所は受給者に対して保険の解約をさせなくてもよい」ということになっています。
しかし現実的には、上記3点を満たしていたとしても解約するよう指導を受けることがほとんどだといわれています。
もしも返戻金をすべて学費として充てるならば保護費の返還対象とはなりません。
しかし、生活保護を受給しながら学資保険を継続していった時、満期金や返戻金が学費よりも高くなった場合には保護費の返還金が発生することがあります。
しかし、生活保護受給当初は返還することを約束していても、実際にお金が余った時に返還に応じる受給世帯は少ないといわれています。そういった処理が長期に渡る例もあることから、多くの場合では学資保険の継続は認められず、受給時に解約の指導を受けることになるそうです。
ただし過去の裁判において「学資保険の満期金は資産に該当しない」という理由から生活保護受給者側が勝訴した事例もあるということです。
2004年に、高校進学のため積み立てていた学資保険の満期金について福祉事務所が「収入」と見なして生活保護費を減額したことを違法として生活保護受給者側が起こした裁判です。この時には「高校進学のための費用を蓄えることは生活保護法の趣旨に反しない」という判断が示されました。
もちろん裁判に際しては世帯をめぐるさまざまな事情や背景も影響していると思われるため、この判決がすべての事例の判断基準になるとはいえません。しかし「すぐに解約しなければならない」とは一概にはいえない側面を示した一例ということはできるでしょう。
生活保護中に学資保険を新規契約したい場合はどうなるの?
生活保護を受給している中で、お子さんのことを考えてこれから学資保険に加入したいと考えた場合はどうなるのでしょうか。
学資保険に加入する場合には保険会社による審査があります。「今後保険料を払い続けることができるのか」という審査ですが、やはり生活保護受給中の世帯の場合にはこの審査を通過することは難しいといえるでしょう。
また上記のように、加入したとしても福祉事務所等から解約を指導されることになるでしょう。保険料を支払うことができるならば当面の生活費に充てるべきであるという考え方が原則的だからです。
収入の目途が立ち今後生活保護の受給を停止することが明らかである等の理由がある場合には、自己判断をせずまずは福祉事務所や担当者に相談しましょう。
福祉事務所や担当者とよく話し合う
生活保護を受ける場合には管轄の福祉事務所や担当者とよく話し合い、疑問点については充分な説明を受ける必要があります。特にお子さんのいる世帯では、お子さんをめぐる心配は非常に大きいと思います。
短期間で受給を脱却できることが明確な場合には比較的問題も限定的ですが、現実としては自立への道がなかなか険しく受給が長期に渡る世帯も少なくありません。そうした中で管轄の福祉事務所や担当者との充分なコミュニケーションは最も大切なことです。
貧困家庭を救済するためのガイドラインとして生活保護法といったさまざまな法律等があります。
しかし生活保護費受給の背景には各世帯それぞれの大変デリケートな問題があり、そういったさまざまな問題に対して機械的に対処できないからこそ生活保護費受給時には必ず各世帯の担当者が存在していると考えられます。生活保護費受給を脱却するあらゆる努力をする一方で、こういったことに関して積極的に相談や質問をしていく姿勢もまた必要となってくるでしょう。