若年層の「ネット依存」は今、日本だけではなく世界的な社会問題となっています。
最近では中国で、インターネットやゲームの依存症矯正プログラムを提供する施設内で18歳少年が死亡したことが話題となりました。
一方日本では、ネット環境や依存に対する社会的な取り組みが遅れているともいわれており、潜在的なネットへの依存は他国よりも深刻であるといった見方もあります。
ネット依存になりやすい環境・習慣はあるの?
「ネット依存」とはどのような状態を指すのでしょうか。
現時点で世界的に認められた共通の診断基準はないということですが、ネット依存度テストや自己チェックリストなどはあります。
もちろん全てのテストや項目をここに挙げることはできませんが、そういった中からいくつかを抜粋してみます。
- 満足を得るためにネット使用時間をだんだん長くしなければならないと感じる
- ネット使用を制限、または完全にやめようとしたが失敗したことが度々ある
- ネット使用を制限、または完全にやめようとした時、落ち着かなくなる、落ち込む、不機嫌になるといったことがある
- 自分が思っていたよりも長時間ネットを使用していることが多い
- ネットのために実際の人間関係、学校生活、部活動などに支障をきたしたり、関係を危うくしたりしたことがある
- ネットへの熱中や長時間の使用を隠すため、家族や先生、周りの人に嘘をついたことがある
- 不安、イライラ、絶望感などといった気持ちから逃げるためにネットを使用することがある
- 目の前にやらなければならない事があっても、SNSのチェックや返信を優先する
- ネットをしている最中に誰かから邪魔をされたり注意を受けたりすると、無性にイライラしたり大きな声を出したりしたことがある
- 誰かと外出するよりも、ネットをすることを選ぶことがある
- ネットのない世界は退屈でむなしく、つまらないものだろうと思う
- 睡眠時間を削ってネットをすることがある
- ラインなどSNSの確認ができないと不安になる
- ネットを通して新しい仲間や友人をつくることがある
いくつか当てはまるということはよくあると思いますが、こういった項目について当てはまるものが多ければ多いほど、「ネット依存」の状態に近づいていると考えられるそうです。
内閣府による平成28年度「青少年のインターネット利用環境実態調査」では、スマートフォンについては中学生の所有率が50%を超え、小学生でも4人に1人は所有しているという調査結果が発表されているということです。
中学生になると塾や習い事のために夜出かけることも多くなります。
そういった際に家庭と連絡を取るという目的で買い与えることは多いでしょう。
また友達や部活動などでラインのグループなどがつくられることも多くなり、お子さんが困ってしまうことも現実として起こり得ます。
学習の調べもののためのツールとして使用できることも多く、持っていること自体を一概に「害」とばかりいえないのは、皆さんご存じのとおりです。
中学生の場合、深夜のネット使用時間が多いために朝起きることができない、学校生活や勉強に支障をきたす、日常生活の中でも始終スマホを手放さないということになるとおうちの方の心配は強くなるでしょう。男子の場合はゲーム、女子の場合はSNSの利用が加速しがちだといわれています。
ネット依存になった環境は?
では、いわゆる「ネット依存」といわれる状態にまで使用が進んでしまうのはどういった環境の場合が多いのでしょうか。
ルールを決めていない
PCやスマホなどを使用する際のルールはまず買い与えた際にしっかり決めておく必要があるでしょう。
たとえば「食事中は使用しない」「使用するのは家族のいる居間だけにする」「使用は宿題などの家庭学習が終わってからにする」といった使用条件です。
中学生の場合には、より具体的に「使用は○時から○時まで」「○時以降はスマホを親に預ける」ということを取り決めているご家庭もあるということです。
一見厳しく感じられますが、小・中学生の場合、使用条件をいくつか与えるよりも物理的に使用時間を制限するルールのほうがむしろわかりやすく有効とも考えられます。
さらに口約束だけではなく、書面として残しているご家庭もあるそうです。
一度頻繁になった使用をあとから控えていくことは大人でもとても難しいことですが、実際には、あまりきちんとしたルールがないまま使い始めてしまうお子さんも多いということです。
特に上のご兄弟がいる場合にはなし崩し的に使用を許可してしまうことがあります。
しかし初めにはっきりしたルールを決め、守れない際にその都度話し合うことは非常に大切です。
ただし、こうしたルールを決める場合にはおうちの方の使用についてもある程度の節度が必要です。
おうちの方が始終スマホやPCに向き合っているならばお子さんもルールを守る気持ちにはなれないでしょう。お仕事や事務的な連絡以外でおうちの方が頻繁に使用する姿をお子さんに見せるのはあまりよくないことと考えられます。
各種フィルタリングソフトを入れていない
これも本来はスマホなどをお子さんに持たせる前にしておきたいことですが、お子さんの用途に合わせたフィルタリングソフトを入れておくことで閲覧などに一定の歯止めをかけることができます。
こうしたフィルタリングソフトについて内容をよく比較・検討しないままスマホなどを与えているというご家庭は意外と多いということです。
毎日の生活の中に明確な目的や楽しさが見いだせない
一般的に考えて、現実の毎日において学校や部活動、習い事などお子さんがはっきりした目的や居場所をもって生活している時には、スマホやPCに長時間費やすことはあまり起こらないのではないでしょうか。
実際、何らかの理由で友人関係がこじれる、部活動を辞める、成績不振になるといったことによって孤立感が強まった時、最初は暇つぶし程度だったゲームで勝利していくことや、多くの人と繋がりが持てるSNSに快感を覚えてネットにはまってしまった…といった事例は多いそうです。
現実では得られにくい反応や評価をネット上で受けることによって違う自分を演じることに拍車がかかるという場合もあります。
これは非常に難しい問題です。
目標や楽しさを無理やり外から押しつけることはできないからです。
居ながらにして楽しめるネットの世界で、ゲームの勝利や他のSNS利用者とのやり取りを成功体験・連帯感と認識することによってついついはまりこんでしまう心理は大人にも理解できる側面があります。
しかしお子さんが少し依存気味になってきたと感じたらきちんと声をかけていくことは大切なことだと思います。
中学生になると「言うことを聞かないから…」と親もついつい諦めてしまいがちです。
しかしやはりそこは、しっかり見ているというサインを積極的に出していく必要があるのではないでしょうか。
ネットの事だけを叱るのではなく、たとえばおうちの手伝いを頼んだり一緒に外に出かけたりすることもよいかもしれません。
「○○をする時間だよ」といった具体的な声かけも有効でしょう。現実の生活の中でお子さんには何らかの役割やさまざまな可能性があることを、親としてきちんと伝えていく必要があります。
どうしたら抜け出せる? いい治療法はあるの?
比較的早い段階ならば、ネットの使用制限や一時的な使用中止という方法は有効でしょう。
まだ中学生でしたら、実際問題としてスマホやPCの環境がないことがそこまで切実な問題を生むことにはならないと思われます。
これができるかどうかは日頃の親子関係によるところも大きいと思いますが、「二度と与えない」ということではなく、使用について「リセットする」「一から考え直す」という考え方のもと、親子でよく話し合うことが大切でしょう。
話し合う観点としては、下に示すような、実際にネット依存のための診療・治療などで用いられている視点に沿っていくのも一つの方法です。
なかなか冷静に話し合いを進めることは難しいと思いますが、高校生やそれ以上の年齢になってから着手するよりは充分に余地はあるといえるでしょう。
家族間での話し合いが既に難しいと感じられる場合には、ネット依存について相談・受診・治療を専門的に行っている医療機関もあります。
近隣にそうした窓口がない場合にはメンタルヘルス科などでもよいといわれています。第三者が介在することでお子さんの自覚をより強く促すことにつながる可能性もあります。
ネット依存には基本的に薬は使用されません。
たとえばうつ病や睡眠障害を併発している場合にはそれに対する薬を用いることはありますが、ネット依存そのものに対しては「本人の考え方を正す」という認知行動療法や、体を動かしてネット以外の楽しみを見つける運動療法や作業療法といった手法が用いられることが一般的です。
ネット依存の治療とは?
具体的には以下のようなことが「治療」として行われていきます。
問題意識を持たせる
本人が「このままではいけない」と思うことがまず第一歩です。
一日の行動記録を書いて実際に一日のうちにどれくらいネットに時間を費やしているかを目で見て認識するといったことをしていきます。
またネットをしているために削っていることや本当はやってみたいことを挙げていくことによって、ネットによる「損失」を再認識していくことが行われます。
自分がネットにはまってしまったと思う時期やきっかけについて振り返ることも大切です。
認知行動療法
数人でのディスカッションによって「ネットとは自分にとって何なのか」を確認していく認知行動療法が用いられることがあります。
ネット依存の場合、「ネット以上に楽しい事はない」「ゲームはチームプレーのため自分がいなければ勝てない」「SNS上にたくさんの友達がいるから毎日連絡をとらなければ申し訳ない」「ネットをやめると体調が悪くなる」といった、ネットをやめることに対するマイナス思考が強く見られます。
こうした点について、複数の人がネットの良い点と悪い点をあげていくことによって自身を客観視することを促していきます。
ネットにつなぐ時間を減らしていく
いきなりネットをやめることは本人の不安感につながることがあります。
そこで一日のうちの使用時間を少しずつ減らしていき、ネットのかわりになるようなことを探していくようにします。
運動療法や作業療法などを取り入れて、実際にネット以外の時間を過ごしていくという方法を用いることもあります。
ネット利用の時間をコントロールできるようにする
ネット以外の事柄が目に入ってくると、自然とネットの使用時間は減っていきます。
ネットに時間を費やすことによって失ってしまったことに対しての後悔も芽生えます。
ネット以外の楽しみや過ごし方が具体的に認識されてくると、一日の時間の使い方を自覚してコントロールしていくことができるようになります。
早めに、根気強く
ネット依存に陥りやすい人の特徴としては、「一人でいることが苦手」「自分で何かを決めていくことが不得意」「実生活の中で他人に上手に頼ることができない」「融通のきかない面がある」「同調圧力に弱い」といったことがいわれています。
こういったことは誰にでも多少は当てはまることなのですが、依存に陥る時には日常生活の中で何らかの具体的な問題を抱えていることも多いといわれているため、お子さんの性格や日頃の様子をよく観察して依存に陥ってしまった背景に何があるのかを考えていくことも大切です。
一般的に言えば、中学生という年齢はそれ以上の年齢の場合と比べると親御さんや周囲の働きかけによって依存を脱出できる可能性はより高いといえるでしょう。
しかし、毎日の生活の中に人間関係のトラブルや精神的な悩みなどがある場合には、ただネットについて注意していくだけでは対処できないこともあります。
こうしたときには家庭内で充分話し合うと同時に、学校や第三者機関に相談していくことも必要となるかもしれません。
いずれにしても早めの対応が大切です。他の多くの「依存症」と同様に、ネット依存についても周囲が早めに気づくことや本人の自覚を根気強く促していくことが必要となってくるでしょう。